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Vol.01
器に注がれた瞬間に、コーヒーにも命が宿ります
Delecto Coffee Roasters

日頃深川製磁をお使いの方に、そのライフスタイルや器への思いをお聞きする連載「わたしと深川製磁」。第一回は、東京・代々木上原にあるコーヒーショップ「Delecto Coffee Roasters(デレクトコーヒーロースターズ)」へお邪魔しました。

周囲には代々木八幡宮や代々木公園が広がる閑静なエリアで、最高水準のコーヒーの提供と豆の販売を行う同店。「焙煎、抽出、器選び、空間づくりまでトータルでこだわっています」と話すのは、店主の田治俊行さんです。店内には深川製磁をはじめ、美しい器が並びます。

取材・文:羽佐田瑶子 写真:玉村敬太 編集:原里実(CINRA, Inc.)

コーヒー、器、空間……すべてに心を配り、リセットできる時間を

——こちらのお店では、軽食やお菓子はメニューになく、こだわりのコーヒーだけを提供されているそうですね。

田治:はい。お客さまには、一杯のコーヒーの背景に広がる世界をぜひ知っていただきたいと思っています。コーヒーの歴史や原産国のこと、各国のカフェ事情まで、常連のお客さまとコーヒー談義に花を咲かせることもよくあります。

東京・代々木上原にある「Delecto Coffee Roasters」

——日の光が優しく居心地の良い空間で、ついのんびり長居してしまいそうです。

田治:当店では、「コーヒーを通じて、非日常の時間を楽しんでいただく」ということを一番大切にしています。そのためには、コーヒーはもちろん空間も、食器も、BGMも、トータルでコーディネートしたい。ですからテイクアウトは行っていません。日常から抜け出してリセットする時間のつくり方を提案したいと考えています。ご自宅でもこうした時間を愉しんでいただきたいので、コーヒーの淹れ方に始まり、ジャズや食器選びのお話になることも多くあります。

——コーヒー豆の生産地も歴訪されていると聞きました。

田治:そうですね。現地を訪ねて知った生産者の想いも感じながら、それぞれの豆に合ったベストな焙煎をしています。さらにコーヒーはとても繊細な飲み物で、抽出の道具や方法によっても味が微妙に変化する。つねに変わらない味でコーヒーをお出しするのはとても難しいのですが、だからこそ一定の高水準で「再現性」を保つことを目指しています。

器によって、コーヒーの味わいは大きく変化する

——抽出器具もそうですが、器によってもコーヒーの味わいは変化するのではないでしょうか。

田治:そのとおりですね。極端な例を挙げれば、紙コップと磁器では飲み口の感触も舌触りも匂いもまったく異なりますから、それが中身の味の感じ方にも大きな影響を与えます。マグカップのように飲み口が分厚いものと、薄く繊細な器とでも、やはり違いがあります。

またコーヒーは浅煎りから深煎りまで、味わいの違いがありますので、私の店ではできるだけ、それぞれの特性に合わせて器を選んでいます。浅煎りは酸味やフルーティーさがあり、色味も紅茶に近い薄さ。対する深煎りは苦味とコクがあり、色も濃い。浅煎りは黄色やオレンジなど明るい色の器、深煎りは濃いブルーや黒など濃い色の器でお出しすることが多いですね。

深煎りのコーヒーが入っていると器の底は見えませんので、飲み終えたときに底に絵柄が現れると、お客さまも「わっ」と喜んでくださいます。

——深川製磁の器もたくさんお持ちですが、お気に入りの器はどちらですか?

田治:コーヒーとのマッチングという意味では、特に「KUROTAKE」の碗皿はお客さまが感動されます。国籍や性別、年齢問わず、10人が10人「すごい」と言ってくださいますし、私自身も大好きな器です。見た目はもちろん、持ちやすさ、飲み口の薄く繊細な口あたりがとても良いんですね。コーヒーを入れると、白い器とのコントラストが大変美しいです。

——モダンなデザインに見えますが、竹の意匠は明治期から深川製磁で使われているものです。

「KUROTAKE」碗皿

田治:「金襴桜」の碗皿は、フルーティーですがコクもある希少なコーヒー「ゲイシャ」とよく合います。漆黒の夜に満開の桜が咲き誇り、金の上絵が施された華やかな「金襴桜」でいただくと、よりゲイシャの格調が高まるように思います。

「金襴桜」碗皿

田治:アルテ・ウァンは、ミルクと合わせたコーヒーに使用しています。持ち手がありませんので、器を手のひらで包むかっこうになり、コーヒーのぬくもりを肌で感じられるのが良いですね。

「アルテ・ウァン」シリーズ

——深川製磁の器の、どんな点に心惹かれますか?

田治:明治時代に、創業者がお若くして何度もパリを訪問されていたとうかがいました。そのためか、どの器も和と洋のエスプリが見事に調和していると感じます。だから深川製磁の和食器は、洋食器と合わせても不思議とすっとなじむんですね。それから、深川製磁の透けるような「白さ」はほかとまったく違います。注いだ瞬間に、コーヒーと器、両者がお互いを引き立てあって、生き生きと命が宿るように感じます。

お気に入りの器があると、家で過ごす時間が豊かになる

——器を選ぶ際に大切にされていることはなんですか?

田治:やはり、一目見て好きなデザインというのは大事ですね。そして使い心地。何より、自分が日々の時間を楽しむためのものとして、心地良いものを選ぶのが大切だと思います。

日々の食事づくりも、お気に入りの器があると楽しくなりますよね。すべて素敵な器で揃えなくても、少しあるだけで食卓が華やぐ。家のなかで過ごす時間が豊かになると思います。

——良い器を持つこともそうですが、毎日の暮らしのなかで、大切にされていることはほかにありますか?

田治:どうしてもコーヒーの話になりますが、先ほど話した「再現性」のほかに、「丁寧な仕事」も大事にしています。人目に触れない準備のときでも、丁寧にやったかどうかはお客さまに伝わるもの。何をするにも気持ちを込めてやることが大事だと思います。

深川製磁さんの器からは、同じ「丁寧さ」を感じます。たとえば持ち手の部分の指がかりのよさや、唇に触れる箇所は絵柄を避けるといった心遣いからは、使い手に渡ったあと、暮らしに馴染んだあとのことまで想像してつくられているのだろうな、と感じさせられます。

——丁寧につくられた器は使うのがもったいなくて、箱にしまって大切にとっておいている方も多いのではないでしょうか。

田治:その気持ちはよくわかるのですが、器は道具なので、やはり使わないと生きないのではないでしょうか。「大切にしまう」のではなく、「大切に使う」ようにしています。

以前、海外のお宅に招かれたとき、代々受け継がれている大事な器で食事を出してくれたことがありました。おもてなしの気持ちがとても嬉しかったですし、器に入っていた家紋から話が弾んだりもしました。

歴史のある器は、このように人とのつながりやコミュニケーションのきっかけにもなります。お店でも、絵柄に込められた意味をお客さまにお伝えすると、大変喜んでいただけるんですよ。

縁起が良いとされる吉祥文様のひとつ「網目文」の碗皿。特別な人への意匠として区別するため、通常の網目文とは異なり結び目に丸が描かれたもので、現在は描き手がいない貴重な品

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